プーチンのロシアを正しく見る

2000年から長期政権を続けるプーチンは様々な点で誤解されています。何よりも旧KGBの出身であることが闇を持っている男のようなイメージを醸し出し、柔道家であることや自然の中でワイルドに活動することが好きなことから武闘派というイメージが、多くの人に先入観として定着しているのではないでしょうか。

プーチンの実際の経歴を見ると、レニングラード大学法学部を卒業して15年間は確かにKGBにいたのですが、ソ連崩壊後の10年間は、レニングラード市副市長、大統領府総局長、連邦保安庁長官、首相という風に行政と政治のエリートコースを歩いてきた超インテリであることが分かります。

プーチンとは正反対の方向に誤解されているのがナワリヌイです。無名のブロガーであったナワリヌイが、毒を盛られた事件から一挙に西側諸国のマスメディアによって英雄的に取り上げられるようになりました。ナワリヌイとは何者でしょうか?

アメリカの独立系メディア WORKERS WORLD のコラムニストである、サラ・フラウンダースが、2021年2月17日に投稿した「アレクセイ・ナワリヌイ:バイデンは何故ロシアのファシストを応援するんだ?」は、現代のロシアを鋭く分析しており、彼女が進歩主義者であることに注意を要するとしても、プーチンのロシアを正しく理解するための一助となると思いますので以下に私の翻訳で紹介します。

ナワリヌイとは何者か?

ナワリヌイの悪名高い経歴は、ロシアではよく知られています。米国とドイツの政府関係者は、彼を反体制派ジャーナリスト、調査力のあるブロガー、反汚職活動家と表現していますが、それは間違いです。

オーストラリア出身のジュリアン・アサンジは、米国の汚職、監視、戦争犯罪を暴露し、イギリスで拘留されていますが、世界で釈放運動が起きています。フィラデルフィアでの人種差別的な警察の暴虐を暴いた黒人作家ムミア・アブ・ジャマールの釈放を求める運動は40年も続いています。アサンジとアブ・ジャマールは米国の支配階級権力に抵抗しましたが、一方、ナワリヌイは国家の支配階級権力を奪おうとしており、同じではないことに注意すべきです。

長年に渡り非ロシア人の追放を求めるファシスト運動を行ってきたナワリヌイは、毎年の反イスラム・反ユダヤ・反移民を掲げる「ロシアン・マーチ」の原動力となってきました。この運動の中心的スローガンは「ロシアを取り戻せ」「ロシア人の為のロシア」「コーカサスを養うのはやめろ」であり、最後のフレーズはイスラム教徒が住む低開発地域へのロシアの補助金廃止を要求しているものです。

ナワリヌイは「不法移民反対運動」や「偉大なるロシア」を主催し、ロシアの解体を求めています。コーカサスやアジアは、現在ロシア連邦の一部であったり、ソ連崩壊後に分離した中央アジアの共和国であったりするのですが、この地域からの全ての人々の追放をナワリヌイは要求しているのです。ナワリヌイはビデオで、コーカサスの人々を「抜くべき虫歯」「駆除されるべきゴキブリ」と呼び、分離主義者の暴力を煽ってきました。

ナワリヌイは、ロシア産業のより過激な民営化、公共支出の切捨て、ビジネスの完全自由化、そしてソ連崩壊後もなんとか維持されてきた社会保障制度の劇的な縮減を求めています。もし自分が大統領になれば、アメリカやEUと非常に友好的な関係を築けると過剰な自信を表明しています。

反腐敗運動という「まやかし」

ナワリヌイは、元仲間からの告発により汚職と横領で何度も逮捕されています。嫌疑の多くは、彼自身が作った組織を貪ったことによります。これにもかかわらず、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)と西側の機関は、彼の反腐敗財団に資金を提供したり、全国の43市に事務所とスタッフを維持する支援を止めませんでした。全米民主主義基金(民間の非営利団体)は、ナワリヌイの仲間たちのエセ反腐敗運動に500万ドルの資金提供を止めることはありませんでした。

しかし、ブラジルのボルソナロ大統領と同様に、彼の反動的な思想は反腐敗運動により覆い隠されています。

もちろん、ロシアには腐敗があります。資本主義は、労働の搾取と公的資源の私的収用に基づく経済システムであり、そもそもからして腐敗を包含しています。

いわゆる反腐敗運動は、資本主義システムの明らかな不平等に激怒した人々にアピールしてきました。しかしそのような運動が、現職政治家を交代させるにとどまらず、もっと大きな意図的な計画を背景としていることは過去にはありませんでした。

現在、ナワリヌイは、定年を引き上げる新しい年金制度変更に反対することで、自分を変身させようとしています。これは、彼と彼の進歩党の元々の主張「定年を引き上げ政府年金基金を取り崩す」を、完全に逆転させる日和見主義であり、政府への国民の反発に便乗しようとしています。

2028年までに男性で60歳から65歳に、2034年までに女性で55歳から63歳に引き上げる定年の引き上提案は、ロシア全土で怒りに見舞われました。大規模な抗議により、計画のいくつかの点で政府は大きな後退を余儀なくされました。

ソビエト連邦の下での年金保証を覚えているロシアの退職者年代がいる限りは、ナワリヌイの年金に関するいい加減さに騙されることはないと見られています。

自由市場ネオリベラル

ナワリヌイの醜い履歴が、西側大手メディアに全く見過ごされてきました。彼は一貫して「リベラルな」反体制派と呼ばれ、進歩的であるとされています。

「リベラル」は、ロシアでは米国の政界とは非常に異なる意味を持っています。それは、「社会保証の増加や中絶とLGBTの権利に関して寛容であり、法律上の自由化などを漠然と要求する」的なものではありません。

ロシアでリベラルが意味するのは、「自由化」を支持する、つまりネオリベラルな政策と自由市場経済を支持することを意味します。より正確な用語では市場自由主義者と呼びますが、資本主義市場のより大きな自由化を主張する人たちです。自由化とは、貿易の「開放」と、企業による不当利益を制限している政府規制の廃止を意味します。

ロシア、米国とEUの金融紙が、ナワリヌイを「ロシア自由化の最善の希望」であると称賛することは、すなわち1991年から2000年のボリス・エリツィン時代において西側資本家が産業と資源を濡れ手に粟で略奪したことの復活要求を意味する、ということなのだと理解しなければなりません。

エリツィン時代は経済崩壊

エリツィンの手で、1991年ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊して、計画的社会主義経済と国有産業が解体しました。資本主義市場経済の導入にょり、経済のほぼすべての産業、特に製造業、エネルギー、銀行業において略奪が発生しました。国営農場は無計画に解体され、産業と農業に対する政府の補助金は打ち切られれました。価格統制は終了し、2年間で、15,000を超える企業が国から個人の手に移されたのです。

米国、ドイツ、その他の欧州連合の資本がロシアに押し寄せ、公共資産と資源をバーゲン価格で購入して、全ての価格が崩壊するという混沌に陥り、不況、ハイパーインフレーション、大量失業が続きました。国民医療制度と社会保障制度は須く排除され、平均余命は急落し、乳児死亡率は急上昇しました。

この「自由化」— 社会全体への経済的ショック療法 — は、工業国の平時における歴史上最も破局的な経済崩壊と呼ばれています。

同時に、一握りの少数新興財閥(オリガルヒ)、成金や成り上がりの海賊が億万長者になり、盗んだ富の限りを西側の銀行やオフショア口座に移しました。この盗まれた富は何一つ、ロシア産業の近代化に再投資されませんでした。

チェチェン、グルジア、アゼルバイジャンで内戦が勃発しました。これらは全て、民営化されたばかりの資源をめぐる、支配競争によって引き起こされたのです。

エリツィンは、米国とヨーロッパの資本家の言うがままでした。世界大国であったソビエト連邦が崩壊し、この残忍な「自由市場」が東ヨーロッパ全体に広がりました。米国が指揮するNATOの軍事同盟は、1990年代に東ヨーロッパ全体に拡大しました。情け容赦も無くこの広大な地域の再征服を展開したのです。

ロシアは、東欧諸国、北朝鮮、キューバ、および西アジア・アフリカの発展途上国との貿易軍事同盟を終了しました。これによりアラブとイスラム世界で、すなわちイラクやアフガニスタンなどで、米国の再植民地化戦争が急増し、ユーゴスラビアを強制的に解体した戦争も起きたのです。

プーチンの登場とロシアへの制裁

大衆の怒りとエリツィンへの2回目の議会弾劾によって、1999年12月31日にエリツィンは、免責と引き換えに突然辞任しました。これにより、首相であったプーチンは急遽大統領代行となり、翌年には選挙で大統領になったのです。

プーチンが資本家の所有制度を元に戻すことはありませんでした。そうではなく、彼はソ連のほころびを縫い合わせて、ロシアの産業を再編し、欧米資本の略奪を制御し、いくつかの主要産業を再度国有化しました。ハイパーインフレはコントロールされました。

ロシア経済は今日ブラジルよりも小さい規模です。石油天然ガスと鉱物資源、穀物、木材が主たる輸出産品です。ロシアの工業生産力に30年前の超大国の面影はありません。

しかし、欧米の資本家帝国主義(サラ・フラウンダースの表現)は決して満足せず全てを欲しているようです。

2014年、オバマ・バイデン政権はかつてソ連であったウクライナにおいてファシストのクーデターを支援しました。これに反発して、国連・NATOの15年支配に対する最初の抵抗が発生しました。重工業の中心であるウクライナ東部のルガンスクとドネツクにおける反ファシスト抵抗運動をプーチンは支援しました。また彼は、NATOのクリミア侵攻を阻止しました。そこにはロシア唯一の不凍港セヴァストポリ海軍基地があったからです。

この抵抗はロシア国家統一の崩壊を防ぐものでしたが、これに対してアメリカとEUはロシアに対してありとあらゆる経済制裁を科しました。ウォール街は、制裁により経済の不調とインフレが続けば、新興財閥(オリガルヒ)がプーチンを排除する行動に向かうことを期待したのです。

2015年にロシアがシリアのアサド政権の支援に回ったとき、それまでのアメリカ主導のISIS殲滅作戦から、一気にロシアが主導権を取りました。ロシアの徹底的な空爆で、2017年末にはISISを完全に叩き潰しました。シリアからのテロリスト勢力撲滅にロシアは手柄を上げたのです。

ワシントンは頭にきています。ロシアの軍事産業は国家の一部であり決して民営化されたことがないからです。ロシアの外交と武器販売によって、イランからヴェネズエラまでのアメリカの熱心な作戦は、ある程度抑制されてきました。中国との緊密な貿易協定によって、ロシアは制裁の網を潜り抜けてもきました。

ロシアの新興財閥(オリガルヒ)は、彼らの不道徳な財産を西側の銀行にしまい込んでいますが、プーチンの一連の動きで脅威に直面し、彼らは欧米の帝国主義との新たな関係を模索しています(それが、ナワリヌイの存在です)。彼らには、ロシアが中国や旧ソ連の国々と新たな同盟関係をどのように結ぶかには何の関心もありません。

これがナワリヌイの本質

ナワリヌイにはロシアでの支持は全くといっていいほどありません。プーチンの関与が疑われている昨秋の毒盛り事件で、彼の支持率は20%にまで上がりましたが、ある世論調査によれば、現在の大統領候補としての支持率はわずか2%です。しかし、ナワリヌイは危険人物です。彼には強力な欧米の支持者と新興財閥(オリガルヒ)の支持があるからです。

欧米の進歩主義者は、決してファシストのネオリベラルに騙されてはなりません。

 

以上 山辺美嗣役が紹介しました。出典は下記の通りです。

 

Alexei Navalny: Why is Biden supporting a Russian fascist?

By Sara Flounders posted on February 17, 2021   Workers World

最新情報をチェックしよう!
>MiraiProject 山辺美嗣(やまべみつぐ)

MiraiProject 山辺美嗣(やまべみつぐ)

政治・行政プロジェクトのコンサルタント

日本の未来をつくろう!
通産官僚・国連職員を経て、地方議員歴24年
ノウハウと知見のすべてを発信してまいります。
日本の未来に真剣に取り組む方の
お役に立つことを願っています。

CTR IMG