“COP26″は、エネルギー戦略主導権争いの場だ!
10月31日からイギリスのグラスゴーで開催されている”COP26″は、表向きは「地球温暖化に関するパリ協定締約国会議」だが、各国の首脳が参加して議論を戦わしているのは「地球温暖化問題」ではない。
自国が今後のエネルギー戦略において如何に世界の主導権をとるかという正に国益の大競争を展開しているのである。
グレタ・トゥーンベリ女子が街頭で何を言ったとか、若者の意見を聞けなどと放送しているマスミは全く的外れの議論をしている。
注目!米国は原子力を中核にすえた
11月3日、COP26で米国代表ボニー・ジェンキンス国務次官は、米国政府の「原子力将来パッケージ」を発表し「クリーン原子力」を拡大するために今後250億ドル(2.8兆円)を支出する公約を示した。
この計画は以下の3点で構成される。
- 大規模、クリーンかつ最新の原子力発電を推進すること
- 原子力発電により水素を製造し、燃料からクリーンエネルギーへの転換を実証すること
- 小規模モジュラー型原子炉など革新的、確実かつ安全な技術を推進すること
この「原子力将来パッケージ」には、次の諸国の原子力開発目標を達成するための支援が含まれる。
- 対象国:ポーランド、ケニヤ、ウクライナ、ブラジル、ルーマニア、インドネシア
- 支援内容:建設、装置、立地調査、実証、研究視察、技術提携、その他
また、このパッケージには、米国が4月にオンライン主催した気候サミットで約束した「小規模モジュラー型原子炉(SMR)技術の基盤整備」と「SMRの標準化と規則に関する官民共同作業計画」も含まれており、これらの計画により着実に原子力を環境対策の中心に再興しようとするものだ。
米国は地球環境目標達成の中心に原子力を置き、国務省、貿易開発庁、商務省そしてエネルギー省が一体となって取り組んでいることを、今回のCOP26で明確に発表した。
米国の周到な根回し
COP26で国務次官が発言した前日の11月2日に、ブリンケン国務長官はグラスゴーでウクライナのゼレンスキー大統領と会談している。
ブリンケン長官は、米国は無条件でウクライナの主権、独立と領土の一体性を支持すると表明した。また、米国とその同盟国はウクライナのエネルギー安全保障強化を継続する旨約束した。この約束にはロシアのドイツ向けパイプライ「ノルドストリーム2」によりロシアからウクライナへのガス供給にリスクが高まることへの対応を含んでいる。
かつてはロシアの衛星国と言われたウクライナは、ソ連崩壊後に政権が親ロと反ロに揺れて安定せず、クリミア半島のロシア併合問題の後は米国寄りの政権が続いている。米国はガス供給でロシアに圧力をかけられているウクライナにエネルギー協力を働き掛けた。正に、東欧における米ロの主導権争いの一面である。
やはり11月2日、米国大統領特別環境特使のジョン・ケリーは、ルーマニア大統領クラウス・イオハニスと「米国製最新小規模モジュラー型原子炉(SMR)を建設すると」共同声明を出した。
米国は、東欧にエネルギー対策で次々と駒を進めている。
環境対策を錦の御旗に主導権を拡大する米国
米国は環境問題を錦の御旗に中央アジア5か国に駒を進めている。これらの国々はロシアが主導する経済協力機構「ユーラシア経済共同体」の加盟国である。
COP26の2か月前、9月16日にカザフスタン共和国、キルギス共和国、タジキスタン共和国、トルクメニスタンとウズベキスタン共和国の5か国ならびに米国は「気候変動C5+1大臣会議」を開催し、共同声明を発表した。
この共同声明はC5+1が 共同して環境対策を進めることを約束している。
- COP26 に意欲的な国別目標を提示すること
- 炭素とメタンに関連した排出を削減すること
- 再エネ、省エネ、地域エネルギーの開発協力
- 民間部門の環境投資を推進すること
- COP26 で発表する国別計画としてC5各国のほか米国もコミット:2030年に2005年ベースの50-52%のCO2 削減。電力における炭素排出を2035年にゼロを目標にすること
米国の2035年電力の炭素排出ゼロは、原子力発電と原子力で作る水素による火力発電によって達成されるものであり、COP26での原子力再興発言はこの時点で用意されていたことになる。
さて日本は?
COP26には岸田総理大臣が出席した。日本の対応についてはこの続編で話すことにしたい。