【岸田首相】の8月1日国連提案に見る【安全保障】意識の脆弱さ

岸田首相の国連での提案は誠に残念である

8月1日、岸田首相の行った国連での提案は、安全保障意識が感じられない誠に残念なものでした。

世界の青年たちに原爆の悲惨さを広島・長崎を訪れ理解を深めてもらうため基金として13億円寄付しますと発言しました。

この「ユース非核リーダー基金」提案が、国連会議の目的である「核兵器不拡散条約の運用見直し」にどのような貢献をするのでしょうか?
「世界の青年たちのネットワークがやがて平和を作る」というのは、何か奇跡でも起きることを期待するような「ファンタジー」に聞こえますが、この基金で核戦争を実際に抑止できるのでしょうか?

原爆は、一般人を無差別に大量殺戮する極悪な兵器です。それを日本人に使いホロコーストにしたのは誰でしょうか? この人道にもとる犯罪はなぜ起きたのか?誰に責任があるのか? このことを世界の青年たちに理解してもらうのが目的だというのでしょうか?

もし岸田首相の目的がここにあるのであれば賛成します。

何故なら広島・長崎への原爆は、「戦争の悲惨さ」を示す歴史遺産にとどまらず、一般人を大量殺戮した「犯罪」だということをハッキリ言わなくてはならないと思うからです。

そんな強い意志があって国連で演説されたのでしょうか。

何よりも、日本はアメリカの核の傘で護られており、過去の人道犯罪を今暴いても国益にならないという現実も理解する必要があります。

外交は、安全保障に対する冷徹な国益判断に基づいて進めて欲しいと、改めて強く感じます。

佐藤栄作内閣の立派な対応 I 原爆の恐ろしさを知っているからこそ、核兵器不拡散条約に求めた1970年の【条件】

2度も原爆投下され、核兵器のすさまじい威力を最も知っている日本。

1970年、核兵器不拡散条約への署名に当たり日本国政府(佐藤栄作内閣)には、安全保障上の懸念からためらいがありました。ためらった上で行った対応は、思慮深い立派なものだと思います。

何故なら、核兵器保有を放棄することになる条約に加盟することによって、核兵器で脅迫してくる国に対抗する手段を失うことになるからです。

核兵器に対しては、核兵器しか抑止力を持たないと言われています。核兵器の保有を放棄すれば、他国の核兵器から日本を守れないのです。自衛権の放棄につながる、そんな危険な条約をただ受け入れることなどできませんでした。

1960年の日米安保条約は、そもそも永久の約束ではなかったのです。成立後10年経過以降は、日米いずれかの一方的通告で廃止できる規定であり、今でもその状況が続いています。そこで万が一日米安保が無くなり、米国の核の傘が機能しなくなったときには、日本が核兵器を保有する余地を残さねばならないと、当時の日本政府は判断したのです。

ですから日本政府は1970年、核兵器不拡散条約の署名にあたり「日米安保条約が存続しなくなった場合には、日本は条約から脱退する」ことを条件としました。
当時の日本政府の判断は、至極まっとうなものでした。

敗戦国の日本と西ドイツ(当時)は、日米安保やNATOという米国の「核の傘」に護られることを条件に核兵器不拡散条約に加盟したのです。

実際、西ドイツも同様に「NATOという米国中心の安全保障機構が存続しなくなった場合には、西ドイツは条約から脱退する」と条件を付けています。

現在の日本を取り巻く核兵器状況は一層緊迫化している

核兵器不拡散条約は、戦勝5か国(米ソ英仏中)が核兵器を独占する目的があったとされています。しかし実際には、条約の成立後に、不拡散の目的とは逆に核兵器保有国は増えて拡散の道を歩んできたのです。

条約には当初から、イスラエル、インド、パキスタンは加盟せず、その後には核兵器を保有するに至りました。
戦勝5か国(米ソ英仏中)が核兵器を放棄しない中で、自国周辺に核兵器をもつ大国がある以上、これらの国は防衛のためにも条約に入らず、核兵器を持つことになったのでしょう。条約がかえって核兵器の保有を促したとすれば皮肉なものです。

その他に、一旦は加盟国だった北朝鮮は、脱退して核兵器開発を進めており、また現在も加盟国でありながらウラン濃縮をすすめるイランは、核兵器保有の道を進んでいます。

日本が条約に参加した当時にくらべ、北朝鮮は核を保有し、中国は核軍事力を増強して、日本周辺には緊迫した安全保障上のリスクが存在しています。

ますます米国の核の傘が抑止力として必要になっているのです。

今回の国連会議に、日本は貢献したのか?

今回の国連会議は、この様に当初の目的が果たせないでいる核兵器不拡散条約の運用を見直すことが目的です。

加えて2017年に成立した「核兵器禁止条約」は、「核無き世界」という美しい理想を掲げるがゆえに現実との乖離が余りにも大きく、新たな混乱の種となっています。

このため、関係国の間に複雑な対立構造が生まれて、国連が核兵器軍縮に関して機能不全となっている状況を改善することが、今回の会議の課題だったのです。

この目的に照らして、日本国政府の、なかんずく岸田首相の対応は、ファンタジーの域を出ないものであったと言わざるを得ず、誠に残念なものでした。

 

日本が行うべき真の貢献とは?

戦後のままの支配秩序が77年後の今でも続いている「国連という組織」は、ハッキリ言って限界に来ています。

戦勝5か国が常任理事国として特権を持つ安全保障理事会は、常任理事国1か国でも反対があれば決定できず、これまでも紛争の抑止に失敗を重ねてきました。

また、核兵器不拡散条約は、この5か国だけが核保有を認められるという「不平等」なものです。その結果、条約に入らず核兵器を保有するほうがトクをするということがまかり通ってきました。

さらに、国連憲章には、未だに敗戦国である枢軸国を「敵国」とする条項が残っています。日本、ドイツ、イタリア、ブルガリア、ハンガリー、フィンランドは、国連から「敵国」と指定されたままなのです。戦勝5か国の一部には「敵国に対してはいつでも攻め入る権利がある」と理不尽な主張をする国があることは、しっかり記憶して欲しいと思います。

もうお判りになったと思います。

日本が貢献すべきは、国連が戦後体制から脱却できるよう尽力することではないでしょうか。

日本は、原爆という人道犯罪の唯一の犠牲国であるからこそ、この犯罪に加担した戦勝国に噛みつくことができると、皆さんは思いませんか。

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MiraiProject 山辺美嗣(やまべみつぐ)

政治・行政プロジェクトのコンサルタント

日本の未来をつくろう!
通産官僚・国連職員を経て、地方議員歴24年
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