COP26 日本の主張は?

岸田首相の発言

岸田首相は11月2日、英国のグラスゴーで10月31日から開催中のCOP26首脳級会合で発言した。

外務省のプレスリリースに基いて、岸田首相の発言内容を箇条書きにしてみよう。

  • 日本は先進国全体で年間1000億ドル(11兆円)の途上国支援目標に対して貢献していく
  • 日本は1億ドル(100億円)規模の事業を行い、アジアを中心に化石燃料火力発電をゼロエミッションに転換する
  • 日本は、6月に表明した5年間で600億ドル(6.6兆円)の官民資金に加え、アジア開発銀行へ5年間に100億ドル(1.1兆円)の供与を追加して、アジアの脱炭素化を支援する
  • 日本は、気候変動への適応支援(防災など)を倍増して、5年間に148億ドル(1.6兆円)の官民資金支援をおこなう
  • 森林分野(CO2吸収)に2.4億ドル(260億円)支援する

アジアを中心とした援助金額が並んでいるが、各々の金額は5年分の数字なので年額に換算して合計すれば、170億ドル(1.9兆円)となり、先進国全体1000億ドルの17%となるから、日本としては国力相応以上の金額を提示したことになる。

岸田首相の発言 その2

上記は外務省のプレスリリースだが、環境省のプレスリリースによると岸田首相発言のニュアンスは違ってくる。

環境省のプレスリリースに追加された点を書きだすと次の通り。

  • 日本は2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指す。そして50%に挑戦することを約束する
  • 日本はアジアを中心に再生可能エネルギーを最大限導入しながら、クリーンエネルギーへの移行を推進して脱炭素社会を創る
  • アジアにおいては再生可能エネルギーの中心は太陽光が主体となるので、電力の周波数安定のため既存の火力発電をゼロエミッション化して活用することが必要である
  • 日本はアジアの化石燃料火力発電を、アンモニア、水素などのゼロエミッション火力発電に転換すするため1億ドル(110億円)の事業を展開する
  • 日本は、自動車のカーボンニュートラルの実現に向けてあらゆる技術選択肢を追求する
  • そのため、本年3月に設置した2兆円のグリーンイノベーション基金を活用して、電気自動車の普及に必要な次世代電池、モーターの開発や、水素、合成燃料の開発を進める

外務省が援助を並べたのに対して、環境省は温室効果ガス削減のための具体的な目標と手段に言及した。この後、COP26の直前である10月22日公表の経済産業省のプレスリリースを見るが、そこでようやく日本のエネルギー戦略が見えてくることとなる。

日本のエネルギー政策

10月22日、経産省はエネルギー基本計画が閣議了解されたことを公表した。

日本政府は、昨年10月に2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡)を達成することを表明し、本年4月には2030年度に温室効果ガスを2013年度比でそれまでの26%削減から46%削減へと大幅に目標数値を引き上げた。そして今回、岸田首相は50%に挑戦すると公言した。

こうした国際公約と整合の取れたエネルギー政策の道筋を、日本はCOP26の直前に示したのである。環境省のプレスリリースはこの一部を反映している。

日本が基準年としている2013年の温暖化ガス排出量は14億トンだが、それを2030年には7.6億トンに、6.4億トン(48%)削減する見通しをエネルギー基本計画は示した。内訳を見よう。

  • 産業部門   4.6 → 2.8  △1.8億トン
  • 業務部門   2.4 → 1.2  △1.2億トン
  • 家庭部門   2.1 → 0.7  △1.4億トン
  • 運輸部門   2.2 → 1.4  △0.8億トン
  • 電力部門   1.1 → 0.6  △0.5億トン
  • その他部門  1.7 → 1.4  △0.3億トン    
  • このほか、二国間クレジット制度で△1.0億トン程度の排出削減・吸収源を確保する

これを見て分かるように、温暖化ガスの発生は電力部門の寄与は極くわずかであり、産業部門をはじめとする熱利用部門が大宗を占めているのである。

つまり太陽光や風力など電力を発生する再生可能エネルギーだけでは、温暖化ガスの削減は実現できない。

ではどうするというのか?エネルギー基本計画の内容を見てみよう。

日本は合成メタン、水素、アンモニアを中心に据えた

<2030年までの脱炭素化>

石炭を順次天然ガスに転換していく。中でもCN-LNG(カーボンニュートラルLNG:天然ガスの採掘から燃焼に至るまでの工程で発生する温室効果ガスを、産出国における環境保全プロジェクトにより創出されたCO2クレジットで相殺することにより、地球規模では、この天然ガスを使用してもCO2が発生しないとみなされるLNG)や、CCUS(CO2 の捕捉、利用、貯蔵)による直接的なCO2削減、ガス・コジェネレーション(熱電併給)の導入が大きな役割を果たす。

加えて少しずつであるが、合成メタンの利用、石炭火力発電でのアンモニア混焼、及び水素専焼火力発電を導入することにより、2030年の目標を達成する。

<2050年までの脱炭素化>

2030年における合成メタン、水素、アンモニアの導入見通しは決して大きくない。だが、2050年のカーボンニュートラル達成には、発電部門においても産業用等の熱需要部門においても合成メタン(CCUS等のCO2に水素添加して製造する)、水素、アンモニアが中心となる見通しを示している。

水素供給ついては、下記に示す国際的なサプライチェーンが大宗を占めるが、2030年までに実用化を目指して米国と共同研究している小型モジュール炉(SMR)による水素製造技術が国内でも導入されていく見通しとなっている。

<国際サプライチェーンの形成>

脱炭素化のカギを握る水素の供給はどのようにするのだろうか。

日本と豪州は鉄鉱石と石炭の需給で強い相互依存関係を築いている。東日本大震災により原子力発電の絶対安全神話が崩れた日本の電力供給を補完したのは石炭であった。

日豪はこの強力な相互信頼を将来にも活かすため、石炭を原料とする水素製造と日本への輸送についての実証研究を重ねている。この成果はまた、インドネシア等の石炭についても応用できるものであり、日本の企業コンソーシアムは将来的な国際サプライチェーン形成に向けて動き出している。

更にアンモニアだが、肥料原料として長い歴を持ち、水素と空中の窒素を触媒で合成する生産方式、輸送、貯蔵の技術は確立している。しかし燃料への利用は新しいため、日本が先陣を切って石炭火力発電での燃焼実証やサプライチェーンの構築の取り組みを行っている。

現在はサウジアラビアから燃料アンモニアを輸送する実験的な取り組みも始まっており、今後はアメリカや中東、オーストラリアなど世界各地で新たに生産し、輸入することも考えられている。日本がいち早く安定的なサプライチェーン構築に取り組み、アジアを中心にアンモニア燃焼の技術を展開することで、世界の燃料アンモニアのマーケットをリードすることが期待される。

日本は自動車分野の主導権をめざす

環境省のプレスリリースでは、岸田首相が自動車のカーボンニュートラルについて特別に言及したことが記されている。

日本の自動車は従来から燃費の向上、ハイブリッド技術の開発など世界の自動車産業をリードしてきた。今日地球環境問題を背景に新興の電気自動車メーカーが急速に拡大してきているが、自動車のエネルギーは単独で判断できるものでなく、世界全体のエネルギー・システムの中に位置づける必要がある。

その意味で日本が今回提案したのは、燃料電池自動車など「水素」と「電気」のシステムの中核技術である、次世代電池とモーターの開発をNEDOに設けた2兆円のグリーン・イノベーション基金で推進して、自動車部門で主導権を維持していく計画と思われる。