2021年3月、パブロフ第一副首相とトカレフ運輸相が前後して発表
タス通信によると、計画はモスクワ・サンクトペテルブルク間650kmに新たな専用の路線を敷き、2時間で結ぶという。在来線の最高速列車は、ドイツ製の「サプサン」で、4時間を要している。また、航空便を使うと両都市間は1時間半かかるので、高速鉄道での2時間は十分に競争力があるという。
ロシアの高速鉄道計画は、これまでも紆余曲折がある。2010年2月、ロシア鉄道はモスクワ ~サンクトペテルブルク間にヨーロッパ基準の高速鉄道新線を建設することを発表したが、その後一旦立ち消えることになる。その後9年を経て、2019年4月にプーチン大統領がモスクワ~サンクトペテルブルク間の建設を支持した。今回の発表はプーチンの支持から更に2年かかったが、2022年に着工して運行は2026年12月開始の見込みとされ、建設にかかる総費用は1兆7,000億ルーブル(約2兆3,800億円)に上る。車両製造者については明らかにされていないが、ロシア鉄道がシナラ・グループ(注)と共同で最高時速400キロの高速鉄道車両の開発に取り組んでいることから、国内製造車両が採用されるとみられる(タス通信)。
(注)シナラ・グループは、エカテリンブルクを本拠地とする、輸送機器製造・金融・都市開発・農業などに投資を行う持ち株会社。傘下に鉄道車両の開発・製造を行う子会社を有する。
ロシア鉄道高速化への挑戦の歴史
1974年最高速度200km/h走行を目指して試験車両が2編成製造されたが、1つは試験走行を行った後に引退し、片方は定期運用に就いた後に引退して量産に至らなかった。
運行中の路線
モスクワ・サンクトペテルブルク鉄道
2009年12月18日よりドイツ製のサプサンを最高速度250km/hで運行しており、ロシア連邦最速である。
サンクトペテルブルク – ヘルシンキ鉄道
2010年12月10日よりカレリアントレインズのフィンランド製アレグロを運行している。ロシア内のほとんどの区間で速度200km/h、フィンランド内の一部区間で速度220km/hで運行している。これにより、サンクトペテルブルク – ヘルシンキ間の所要時間が5.5時間から3.5時間に短縮された。
モスクワ – ニジニ・ノヴゴロド鉄道
2010年7月30日よりサプサンを運行している。3編成のうち2編成はモスクワ – ニジニ・ノヴゴロド間を、1編成はサンクトペテルブルク – ニジニ・ノヴゴロド間を運行している。後者は所要時間が14時間から8.5時間に短縮された。
計画中の路線
モスクワ・カザン間
2013年、サンクトペテルブルクの経済フォーラムにてウラジーミル・プーチン大統領により発表された。全長770kmの高速鉄道専用線を最高速度400km/hの規格で建設し、現状ではモスクワ – カザン間の所要時間が13時間であるところが3.5時間に短縮される見通しで2020年に開通予定だった。
北京・モスクワ高速鉄道
2014年10月に中国の李克強首相がロシアを訪問した際、露中両国はモスクワ~北京間の高速鉄道整備のプロジェクトを検討する旨のメモランダムに署名。モスクワ~カザン区間は、北京まで伸びる国際的な高速鉄道「ユーラシア」の最初の区画になると位置付けられた。モスクワからカザフスタン領を通過して北京に至る総延長は7,000kmだが、高速鉄道の建設により、モスクワ・北京間が陸路で2日間で移動できるようになるとされた。
ところが、その後モスクワ~カザン高速鉄道は、難航することになる。設計作業は、ロシア・中国のコンソーシアムによって、2018年までに完了したが、中国側は資金提供に関する態度をにわかに硬化させ、試算の結果投資を回収できず、沿線国の資金提供が必須だと中国側は評価を下した。つまりロシア政府も応分のカネを出せという話だ。
混乱の始まり
こうしたなか、2018年12月にアントン・シルアノフ第1副首相兼財務相がモスクワ~カザン計画の採算性に疑問を呈すなどして状況が一変。2019年3月には財務省がモスクワ~カザン計画の予算を別のプロジェクトに回すことを提案した。このため、モスクワ~カザン高速鉄道プロジェクトは、いまだ着工にも至っておらず、2019年4月にこの事業はいったん白紙に戻ってしまった。そうかと思うと、2019年10月に、オレーシキン経済発展相が、「サンクトペテルブルグ~モスクワ~ニジニノブゴロド高速鉄道を建設することが理に適っている」と発言するなど、議論の収拾がついていない。
唯一決定した モスクワ・サンクトペテルブルク間
2019年4月にベグロフ・サンクトペテルブルグ市長代行とベロジョーロフ・ロシア鉄道社長がプーチン大統領に、モスクワ~サンクトペテルブルグ高速鉄道の設計作業を開始することを認めるよう陳情し、プーチン大統領はこれを了承した。この時点で、政権はサンクトペテルブルグ路線を選択し、カザン路線については白紙を決定したのだ。
プーチン政権のロシアは、ビッグプロジェクトをやると言ったらやる国だが、これだけ方針がブレ続けたのはレアケースである。原因をロシア・INS経済研究所の服部倫也氏は3点あげる。
第1に、欧米との対立によるロシア経済・財政が厳しさを増していおり、プーチン政権はプロジェクトを選別していかざるをえない。その際に、優先するのは地政学的な意義の大きい事業、エネルギー大国としての威信を示すような事業であり、国内の旅客輸送などは後回しにされがちになる。
第2に、中国がロシア・ユーラシア諸国のプロジェクトに資金提供する期待は幻想である。一帯一路の枠内で検討されていた輸送インフラプロジェクトは、成功例があまり見当たらない。
第3に、高速鉄道建設の可否、ルート選定といったことにも、プーチン体制のエリート内の力学が反映する。㈱ロシア鉄道社長、高速鉄道担当の第一副首相などが、長期に任期が続いていないことが混乱の原因。プーチン大統領とのより太いパイプを持つ実力者が高速鉄道計画を推進していたら、また違った展開もあったかもしれない。
2021年11月21日 シーメンスがロシア鉄道と契約締結のニュースが!
独シーメンスは11月21日、ロシア国鉄(RZD)と高速鉄道車両の共同開発に関して契約を締結した。新車両はモスクワーサンクトペテルブルク間で利用され、同区間では平均時速360キロメートルでの営業運転を行うと公表した。日本勢は欧州勢に一歩先を取られた。
鉄道車両は中欧日の競争が激化している。トップの中国中車に対抗するため、2018年には独シーメンスと仏アストラムが合併し世界第2位となった。日本勢は世界第5位の日立製作所、第10位の川崎重工であるが、日立は、2018年にロシア連邦最大の鉄道車両製造会社トランスマッシュホールディング(Transmashholding、TMH)とともに、ロシアで鉄道車両用電気品を製造する合弁会社 TMHトラクションシステムズ(TMH Traction Systems)を設立。ロシアおよびCIS市場(ロシア・ウクライナ・モルドバ・アゼルバイジャン・ベラルーシ・カザフスタン・アルメニア・ウズベキスタン・キルギス・タジキスタン)での鉄道システム事業を拡大している。
日立とTMHは、この新たなTMHトラクションシステムズ設立で、ロシアやCIS諸国に高効率・高品質の鉄道システムソリューションを提供していく。日立は、TMH傘下の地下鉄車両メーカー メトロワゴンマッシュ(Metrowagonmash)を通じ、ブルガリア共和国のソフィア地下鉄や、ロシアのサンクトペテルブルグ地下鉄、ハンガリーのブダペスト地下鉄に鉄道車両用電気品を納めてきた。またTMHは、ロシアやCIS諸国に販売ネットワークを持ち、多くの鉄道車両を提供してきた実績がある。