山辺美嗣です。この記事は、2020年12月5日14時に書いています。
「はやぶさ」は奇跡ではなかった
宇宙探査実験機「はやぶさ」が、小惑星イトカワからサンプルを持ち帰ったのは、2010年6月のことです。2003年5月に打ち上げられ、2005年11月にはイトカワに2度にわたって軟着陸に成功しサンプルを採取。その後地球への帰還の途上で通信途絶、遠隔操作で回復。この一部始終はまるでドラマそのもでしたね。
この世界初のサンプルリターン成功には、日本の技術があります。宇宙で7年間作動し続ける装置の精度はさすが日本と思いました。また60億kmの宇宙の旅を制御したピンポイントの遠隔操作と自動制御など、日本が宇宙技術の最高レベルにあることを証明しましたね。まぐれや奇跡ではないのです。
この「はやぶさ」のすごさは、何といっても「イオンエンジン」です。キセノンを推進剤とするマイクロ波放電式のイオンエンジンシステムの性能を確認することが、「はやぶさ」の最大のミッションでしたが、最高のデータを集め大成功でした。
「はやぶさ2」はもっとスゴイ
この原稿を書いている2020年12月5日、あと十数時間で小惑星リュウグウから採取したサンプルの入ったカプセルを豪州に投下し、本体は地球に戻らず次のミッションにそのまま出発するというのですから、スゴイですね。
はやぶさ2は実用機として、2014年12月に打ち上げられました。イオンエンジンを含め種々の改良がなされていますが、特にサンプルを採取する方式については、タッチダウン方式から円錐の弾丸を打ち出す衝突方式に変更し、2018年10月と2019年7月に2回にわたって深い部分のサンプルを得ることができています。
次のミッションに出発
はやぶさ2の次のミッションは、2020年12月6日にカプセル投下の後、引き続き太陽系を周回しながら目的の軌道に乗り、2031年7月に小惑星1998 KY26に接近して探査することです。
当初から2回分の機材と推進剤を積んで出発しているのですから、このイオンエンジンというのはすごいものです。
日本はなぜ小惑星を探査するのか
イトカワは540m、リュウグウは700m、1998KY26は30m。はやぶさ、はやぶさ2がターゲットにした小惑星の大きさです。こんな小さな惑星にどんな意味があるのでしょうか。
第1は、太陽系が生まれた当初の物質が残っていること。宇宙の生成は知的好奇心旺盛な人類にとって、学問の究極に位置づけられています。もしサンプルの中に、生命の原料といえるアミノ酸などが見つかるとどうなるか。太陽系からどのようにして生命が生まれたかが分かる、世紀の大発見になるかもしれません。
第2は、生み出される新しい宇宙技術が、人間生活に活かされていくことを狙っています。例えば、水素燃料電池は宇宙開発から生み出されました。
第3は、人類が宇宙空間を利用、移動する技術を得ることが、宇宙で新物質を合成する工場や研究をする居住空間としての利用など、未来の可能性を提供するからです。
第4は、人類の存続がかかっていることです。恐竜の絶滅は小惑星からなる流星群の地球衝突が原因であったと言われています。決して大きくないサイズであっても、流星群の衝突は地球の生命体の存亡に関わる危険性を持っています。
成分がわかれば破壊の仕方もわかりますね。地球防衛隊が、流星群を破壊するために出発していく場面は、SF映画ではなく現実になるかもしれません。