【H3ロケット】初号機の打ち上げ失敗【JAXAに焦りがあったか】


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H3ロケットの打ち上げ失敗に関して

かつて通産省に勤務して大型プロジェクトの研究開発を担当していた経験に照らして、私なりにJAXAの問題を探ってみました。

結論はつぎの通りです。

1.スペースX社の先行に、大きく遅れをとったことへの焦りがあったのではないか
2.「失敗が開発スピードを加速する」風土が、じゅうぶんでないように見える
3.ロケット開発が2派閥に分かれている組織は、これでよいとは言えない

スペースX社が大きく先行している

NASAはスペースシャトルの2度の事故で14名の宇宙飛行士を失い、有人宇宙飛行を一時期中断していました。

それが現在は再開されているばかりか、NASAでは火星に人類が飛行する計画も動きだしています。

その転機は、
イーロン・マスク氏率いるスペースX社が、商業ロケットビジネスを成功させたことによってもたらされました。

イーロン・マスク氏は2002年にスペースX社を設立し、2006年にファルコン9ロケットの開発に着手。
2008年にはNASAの支援を得て、2020年に有人宇宙船の打ち上げに成功。
ロケット開発に着手してから有人宇宙船の打ち上げ成功まで、わずか14年という快挙を成し遂げたのです。
スペースX社のファルコン9ロケットは、2021年31回、2022年は61回の打ち上げに成功し、世界の商業ロケット市場をほぼ独占しています。
JAXAはこれに対して、イプシロンロケットとH3ロケットの2機種で商業ロケット開発を進めてきましたが、
スペースX社のファルコン9ロケットにはるかに後れを取っていました。
リスクのある投資に対して豊富な資金があつまるアメリカと比較すると、
日本のロケット開発はリスクを許さない国の資金だのみです。
JAXAには何としても成功させたいという焦りがあって、それがマイナスに働いたことは否定できないでしょう。

 

失敗が開発スピードを加速する

ギャレット・リースマン博士(南カリフォルニア大学教授)は、元NASA宇宙飛行士で現在スペースX社顧問を務めている宇宙技術の権威者の一人ですが、2020年12月にこのように語っています。〔1〕

「スペースXが難しい技術を短期間で確立できた要因は、一つは非常に優秀な技術者を集めたこと、もう一つは、そんな優秀な技術者のやる気を最大限に引き出し、かつ失敗を恐れないようにしたことです」

「失敗は私たちにたくさんの知恵を授けてくれます。失敗すると、現在の設計の問題点がたくさん見えてくる。それらをすべて修正し、また実際に試してみると、今度は別の問題が見えてくる」

「これをスピーディーに繰り返すことで、どんどん成功に近づいていく。失敗を早く重ねることこそが、スペースXが短期間で高い技術力を身につけられた一番の要因ではないでしょうか

 

JAXAに「失敗が開発スピードを加速する」風土が十分に育っているかは、検証しなくてはならない大きな疑問点でしょう。

 

 

2つの派閥がある組織の問題

JAXAは東大宇宙研と宇宙開発事業団が統合してできた国の研究開発機関です。組織表の上ではJAXAという一つの機関に統合していますが、この2派閥は実際のところ全く異なる意思決定をしています。

東大宇宙研を引き継いでいるのは「宇宙科学研究所」であり、開発している固体燃料のイプシロンロケットの製造を担うのはIHIエアロスペース社、発射場は内之浦です。
宇宙開発事業団を引き継いでいるのは「宇宙輸送技術部門」であり、開発している液体燃料のH3ロケットの製造を担うのは三菱重工、発射場は種子島です。

このようにロケット開発のグループが完全に2つの派閥に分かれていることは不思議なことです。

「切磋琢磨して競い合っている」「技術の共有がシナジー効果を生む」などプラスの効果を強調しているのだとと思いますが、

研究開発の人材が分散しているマイナス面は極めて大きいのではないでしょうか。

 

打ち上げ失敗原因の検証に求めること

昨年10月にイプシロンロケット6号機が打ち上げに失敗しました。その原因の検証がまだ途上の中で、本年3月にH3ロケットが打ち上げに失敗して原因の検証が行われています。

これらの検証は技術面を中心に別々に進行しています。これで良いとはとても思えません。

JAXAに組織と風土の問題があるとすれば、それを放置することは許されません。ぜひ一体的に問題を掘り下げて解決の道を示して欲しいと思います。

なぜなら、多くの若者が、子供たちが、宇宙に夢をいだいて学んでいるからです。

 

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〔1〕参照:日経ビジネス 2020.12.23