【日本の豊かさを取り戻す】労働生産性を引き上げなければ、貧困国になってしまう!

日本はいつまで先進国の仲間に入っていることができるのでしょうか?
もう先進国とは言えない。そんな指摘も外国からは聞こえてきます。

ゆでガエルのたとえ話しがあるように、徐々に徐々に悪化が進行するとそれに気がつかず、ある時一挙に危機を迎えることになりはしないか。

この記事は、産業界と政界に「いまこそ労働生産性向上の対策を打つべし」と提言しています。

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今年の2月に、内閣府から県民経済計算に修正が入って、最新の令和元年度分が利用できます。

改めて、この統計に基いて作られている色々な指標が、何を意味するのか読み解いてみたいと思います。

また、日本が直面している「労働生産性」の問題についても分析を試みています。

 

 

1人当たり県民所得の、どこが「豊かさ」なのか?

都道府県の「豊かさ」を示す1つの指標として「1人当たり県民所得」が使われます。

この指標が発表されると、「今年は何位だった」と、上位にランクされた県の知事さんが、誇らしげに記者会見されている様子を見たりします。

では実際に、次の表のうち左半分にある、県民所得のランキングを見て考察してみましょう。
(右半分については、のちほど説明します。)

1人当たり県民所得と1人当たり雇用者所得(令和元年度) 【単位千円】

順位都道府県1人当たり
県民所得
1人当たり
雇用者所得
(順位)
東京都5,7575,7061
愛知県3,6615,0775
静岡県3,4074,61119
栃木県3,3614,67314
福井県3,3254,9358
滋賀県3,3234,67016
富山県3,3164,43430
群馬県3,2864,52424
山口県3,2494,51026
10茨城県3,2474,77011

全国平均

3,3454,836

(出典)内閣府・国民経済計算等  ©MiraiProject合同会社 無断転載を禁じます。

1人当たり県民所得が示す「豊かさ」の中身は何?

県民所得は次の式で表されます。これが「豊かさ」の中身です。

県民所得 = 雇用者報酬 + 財産所得 + 企業所得
就業者の給料である「雇用者報酬」のほかに、次の2つが加わっています。
「財産所得」:利子および配当、賃貸料、著作権や特許権使用料など
「企業所得」:企業の営業利益
「財産所得」と「企業所得」は、大手企業の本社が多い大都市圏に偏在するように予想できます。
しかし、1人当たりの県民所得は、実際には予想と違って、3位から10位は地方の県が上位に並んでいるのです。
では、「雇用者報酬」の大小で順位が決まるのでしょうか。

1人当たり雇用者報酬でも「豊かさ」を説明できない

1人当たり雇用者報酬は、雇用者報酬を就業者数で割ったものであり、就業者1人当たりの給料を表します。

給料が高い県は豊かに違いない、そのように予想したのですが、先に掲げた表の右半分を見てください。

1人当たり県民所得の上位10県で、1人当たり雇用者報酬でもベストテンに入ったのは、わずかに3県で、その他の7県は上位から外れ中位台なのです。1人当たり雇用者報酬では「豊かさ」は説明できません。

県民所得を「足し算」で構成する3つの中身、「雇用者報酬」「財産所得」「企業所得」のそれぞれによって、1人当たり県民所得の順位を説明することができないとすると、いったい何で説明できるのでしょうか?

ひょっとして、「足し算」ではなくて、「掛け算」なのかなと考えてみました。

労働生産性で「豊かさ」を説明できるか?

もう一度、冒頭に示した表を使って、今度は右側に労働生産性を記入してみましょう。

 

1人当たり県民所得と労働生産性(令和元年度) 【単位千円】

順位都道府県1人当たり
県民所得
労働生産性(順位)
東京都5,75711,0321
愛知県3,6619,7853
静岡県3,4078,87911
栃木県3,3619,1677
福井県3,3258,53113
滋賀県3,32310,1662
富山県3,3168,52914
群馬県3,2869,2996
山口県3,2499,3365
10茨城県3,2479,7344

全国平均

3,3458,680

(出典)内閣府・国民経済計算等  ©MiraiProject合同会社 無断転載を禁じます。

 

労働生産性で、「豊かさ」は説明できる

1人当たり県民所得と労働生産性との相関を見たところ、1人当たり県民所得の上位10県で、労働生産性でもベストテンに入ったのは7県もあり、他の3県も10位台前半でした。

このように強い正の相関があることが判明したのは、次の式に理由があります。

県民所得 / 人口雇用者数 / 人口  X  県内総生産 / 就業者数 X 県民所得 / 県内総生産
つまり、1人当たり県民所得 = 雇用者人口比率  X  労働生産性  X  所得分配率、というふうに、1人当たり県民所得は、労働生産性との「掛け算」の関係があるためです。
県民所得は、個人が働いて得た給料と、財産が生み出した富と、企業の儲けという、県内で生み出された「豊かさ」の総計です。この「豊かさ」の大小を決定しているものが「労働生産性」なのです。

産業・業種により、労働生産性に大きな開き

労働生産性は、産業別、業種別により、大きな開きがあります。

 

産業別・業種別の労働生産性(令和元年度) 【単位千円】

順位産業別労働生産性製造業種別労働生産性
不動産業51,065石油石炭製品167,739
電気ガス水道25,575一次金属24,190
金融保険業14,023化学23,296
情報通信業12,829情報通信機器19,476
教育8,989電子部品14,918
卸売小売業7,193電気機械11,919
建設業6,498輸送用機械10,496
運輸郵便業5,815パルプ紙9,356
農林水産業2,138食料品7,498
10宿泊飲食業2,044繊維製品2,945

全産業平均

5,026全製造業平均10,776

(出典)内閣府・国民経済計算等  ©MiraiProject合同会社 無断転載を禁じます。

1人当たり県民所得のベストテンの都道府県のうち、2位から10位は、生産性の高いエネルギー産業や製造業の日本の本拠地です。そして、1位の東京は、生産性上位の産業と製造業種の大手企業本社の集積地です。
こうした生産性の高い産業と製造業種の立地の多寡が、1人当たり県民所得の高低につながっていると判断できます。

 

日本の労働生産性は、他のOECD諸国よりかなり低い

今まで考察してきたように、国の豊かさは労働生産性の高さによってもたらされていると言えます。

平成、令和と長期にわたり日本の経済成長は低空飛行を続けたため、OECD諸国の中で日本の労働生産性の順位は下がり続けて、現在上位からかなり低い下位グループにいます。

比較のためにOECD38ヶ国中の10ヶ国を選んで一覧にしました。

 

OECD38ヶ国の労働生産性(2021年)【単位:購買力平価換算USドル】

順位国 名労働生産性
ノルウェー153,118
4米国152,805
5スイス141,411
8フランス124,350
12イタリア120,749
15ドイツ117,047
19英国101,405
24韓国89,634
29日本81,510
30ポルトガル77,979

OECD38ヶ国平均

107,482

(出典)OECD統計  ©MiraiProject合同会社 無断転載を禁じます。

日本は、韓国に順位でぬかれ、労働生産性は、韓国の91%しかありません

また、日本の労働生産性は、米国の労働生産性の53%、ドイツの労働生産性の70%にしかならないのです。

2021年の購買力平価は97円/USドルでしたが、2015年頃からの推移は100円/USドル前後で横ばいとなっています。

購買力平価は、中期的な為替相場のトレンドを反映すると言われていますが、今後円安が定着して購買力平価が実勢レートの130円/USドルになった場合を仮定するとどうなるでしょう。

日本の労働生産性は現在よりも2割以上低くなり、OECDの中で正真正銘のビリになってしまうことを危惧します。

待ったなしの、労働生産性対策

こんなにも貧乏な国になっているのです。労働生産性対策は最大の政治課題であり、待ったなしだと言えるでしょう。

では、労働生産性対策はどのような観点から検討し、実施する必要があるのでしょうか。

 

生産性の低い、産業や業種に対する対策
労働生産性の低い産業や業種には、教育、卸売小売業、建設業、運輸郵便業、農林水産業、宿泊飲食業。また、製造業のうち、パルプ紙、食料品、繊維製品などが、あげられます。
こうした産業、業種を対象に労働生産性対策が必要です。
生産性の低い、中小零細企業等に対する対策
大企業、中堅企業に比べて、中小零細企業や個人事業主の労働生産性は、かなり低いと言えます。
事業承継等を契機に、合併や協業などによって、規模拡大と労働生産性向上を同時に進めることが必要です。

 

デジタルトランスフォーメーションの積極的な展開
デジタル技術、AI、ロボットなどの急速な発展を、製造業の現場だけでなく、ホワイトカラー業務の労働生産性向上に大いに活かすチャンスが来ています。
商工関係団体、金融業界と政府が組んで、資金対策も含め大きなうねりをおこしていく必要があるのではないかと思います。
リスキリングによる技能職の育成と、労働力のシフトを加速
労働生産性対策を実施すると、産業や業種から一定数の離職者が発生しますが、リスキリングにより技能職の不足している産業や業種へと、労働力のシフトを加速する必要があります。

 

県や地域での対策の実施
労働生産性の低い産業・業種への対策、中小零細企業等への対策、デジタルトランスフォーメーション対策、労働力シフト対策、この4つの対策を、県や地域と言った「面」でどのように展開していくのか、地方政府と地方議会の出番です。
国が作ったひな形の金太郎アメでない、地域の資源と人材、産業の技術とノウハウの蓄積、などを活かした取り組みを期待するものです。

提言

日本経済の位置づけは、OECDの中で最下位グループにあることを直視しなければなりません。

子供対策、資産倍増対策など、財政動員型のバラマキでは、日本は豊かになれません。

付加価値を生み出す、労働生産性の高い産業構造、業種構造に転換していく必要があります。

その道筋を、産業界、金融業界、中央政府と地方政府が、連携し組織化して、計画し実施することを強く求めます。