敗戦によって新憲法が制定され、日本は戦前の古い制度を廃止して民主国家へと転換したと教科書は書いています。多くの国民は日本が、進んだ自由主義・民主主義の国になったと信じて疑いません。ではなぜ、地方が自立できない中央集権の構造が、今もあるのでしょうか。
地方の将来は、地方に住む自分たちが責任をもつべきだと考える方、また、地方が国に多くをたよることに疑問をもっている方にぜひお読みいただきたいと思います。
世界の国では国民が参画して憲法が作られる。では、日本は?
日本が連合国司令部GHQの統制のもとにあった、1945年10月から1年をかけて日本政府とGHQの共同作業として憲法草案は作成されました。(実態はGHQ草案です)
1946年11月3日に新憲法は旧憲法の国会で成立し、47年5月3日に公布されています。
今日までこの両日は国民の記念日なのですが、何を記念しているのでしょうか。国民が全く参画できないままに憲法がきまったことをお祝いするとでもいうのでしょうか。
2021年、チリでは国民投票が行われ、市民代表の憲法会議で(国会議員を入れないで)新憲法の草案を協議することが決まったと聞きます。独裁政治を行ったピノチェット政権時代に定めた憲法を廃止するためだと聞きます。このことで感じるのは、憲法は国民が参画して定めるのが本当の姿なのだろうということです。
ふり返れば、近代憲法の先駆けであるフランスの憲法もアメリカの憲法も、市民代表が参加する憲法制定会議で時間をかけた協議の末に草案が決まっています。
残念ながら、日本国憲法は国民が作ったものではありません。そのため国民の関心から遠い存在となっており75年間も改正されていないところに、中央集権構造がのこっている最大の原因があります。
憲法には都道府県も市町村も書いてない
憲法第92条から第95条は、地方自治を定めた第8章です。「地方自治」「地方公共団体」のことばだけが書いてあります。都道府県や市町村の記述もありません。
そして「地方自治」の本旨に基づいて別途法律で定めるとして、具体的な事項は国会の立法に委ねています。1947年4月に地方自治法が国会で成立し、憲法と同日の5月3日に公布されました。
都道府県や市町村という自治体の区分も、国会が決めた法律に私たちは従っています。終戦後の焼け野原の中で、1946年4月に当選した戦後初の国会議員が、11月までのたった半年間に、上程された憲法草案に対していったい何を議論したのでしょうか。また、1947年4月までの1年間に地方自治法制定をどのように議論したのでしょうか。
次の章では、日本の地方制度が大急ぎで、戦前の制度を寄せ集めて作られたものだということをお話しします。
地方自治法の骨格は戦前の古いもの
地方自治について定めた基本法ともいえる「地方自治法」はどのような経緯をたどって制定されたのでしょうか。
新憲法が制定され、地方自治法が制定されてからは、地方自治の本旨を体現しているとされる地方自治法の解釈権は総務省(旧自治省)にあるとされてきました。
総務省の解説書によれば、地方自治法は、まったく新たに作られたものでなく、1947年4月に東京都制・道府県制・市制・町村制を統合して制定されたとしています。
これらの制定時期を古い順に記載しますと、市制・町村制は明治21年制定、道府県制は明治23年制定、東京都制は昭和18年制定で、この年には道府県制と市町村制も全面改訂されています。
地方自治法改正の要求は、2000年にようやく一部かなえられた
これらの明治から昭和の戦前までに制定された制度を統合した地方自治法は、中央主権の色彩を濃く残しているものでした。
その代表的なものが「機関委任事務」とよばれる「一定の国の事務については知事を国の機関とみなして支配下におく制度」です。パスポートの発給や飲食店の営業許可など、対象は562件にも達しており、都道府県は実際のところ、予算をもらって国の配下で動いていたのです。
地方分権の推進は、戦後一貫して、地方自治関係者の強い要求でしたが、機関委任事務制度の廃止、国庫補助金負担金の廃止など、中央集権からの離脱は決して容易ではありませんでした。
戦後55年も続いたこの機関委任事務制度は、地方分権一括法により2000年にようやく廃止されました。
地方分権改革は、機関委任事務の廃止などごく一部の成果を出しましたが結果は無残にも失敗しています。全国都道府県議会議長会、など地方6団体や国の地方制度調査会で議論されてきた地方自治改革の多くの論点は未だに積み残されています。
前進していない地方の自立
地方は、2000年にようやく自立のきっかけを作ることができたのですが、その後は三位一体改革、市町村合併、道州制、地方主権改革など、国が主導するネコの目のように変転する地方政策に振り回され続け、自立に向けて獲得した成果は乏しいように見受けられます。
地方の自立に向けて道のりは遠いように見えますが、ではどうしたらいいのか、引き続き議論をしてまいりましょう。